日本の賃貸住宅市場では、建築資材や人件費の高騰、修繕・維持費の上昇などにより家賃の値上げが続いています。とはいえ家賃の値上げは、大家さんが自由にできるものではありません。家賃の値上げは、借地借家法第32条に基づく法的なルールをもとに行われます。
そこで本記事では、日本の家賃決定の仕組みや家賃値上げの法的根拠、普通借家契約と定期借家契約の違いや交渉方法、さらに近年の家賃動向を解説します。
※以下の内容は日本の賃貸制度に関する一般的な情報であり、物件や契約内容によって実際の方針や対応が異なる場合があります。本記事は法的助言を目的としたものではありません。具体的な事案については、専門家またはお住まいの地域の相談窓口へご相談ください。
日本の家賃はどのように決まるのか

家賃は、以下のような要素を考慮して決定します。
- 物件の構造(木造・鉄骨造・RC造など)
- 築年数
- 立地条件
- 間取りや広さ
- 設備・仕様
- 周辺地域の相場 など
構造でいえば、鉄筋コンクリート造のマンションは防音性や耐震性が高く、木造アパートより家賃が高くなる傾向があります。築年数や駅までの距離や都心へのアクセス、近隣に商業施設や学校などの利便施設があるかどうかによっても家賃は変動します。
さらに、オートロックや宅配ボックス、駐車場の有無といった設備の充実度も家賃に影響します。さまざまな要素を総合的に考慮したうえで、一般的には物件の所有者(大家さん)が家賃を設定しているのです。
大家さんが家賃を値上げするタイミングと理由

大家さんが家賃の値上げできるのは、自由なタイミングではなく法律で定められた正当な理由があるときに限られます。例えば「税金や維持費が上がった」「物価が変動した」「周辺の家賃相場と比べて不当に安い(または高い)」といった場合、家賃の見直しを請求できるという内容です。
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。引用:第32条|借地借家法
なお、固定資産税などの税金や修繕・管理費の上昇、建材や人件費の高騰による維持費の増加、インフレ(物価上昇)によるコストが上昇した場合や、周辺地域の家賃相場が全体的に上がり、現在の賃料が相場より低い場合にも値上げが検討されます。
一方、「大家の個人的な事情で収入を増やしたい」「借主が長く住んでいるから」「何となく値上げしたい」といったケースは、法律上の事情変更にあたらないため家賃の値上げは認められません。
詳しくは、「家賃が高いのはどうして?」のブログをご覧ください。
普通借家契約と定期借家契約の違い

普通借家契約は、借主が契約を続けたい意思を持っていれば、貸主に正当な事由がない限り更新できます。一方、定期借家契約は契約期間満了で契約が終了することが前提で、契約更新が自動では認められず、再契約は貸主と借主の合意が必要となります。
また、普通借家契約では、賃料の増減を請求できる賃料増減請求権が原則認められています。更新料については、契約に定められていれば発生しますが、契約の種類自体が更新可能という点が大きな特徴です。
対して定期借家契約は、契約期間終了後の更新がないため、更新料という概念が契約終了後の再契約という形でしか出てこないケースが多く、賃料改定についても特約により制限されるケースもあります。
どちらの契約形式を選ぶのかは、「どのくらいの期間住むのか」「契約更新を希望するか」などの観点で判断すると良いでしょう。
| 普通借家契約 | 定期借家契約 | |
| 契約方法 | 口頭もしくは書面 | 公正証書などの書面 |
| 契約更新 | 正当な理由がない限り更新 | 契約満了により更新なし (再契約は可能) |
| 賃料の増減 | 特約にかかわらず請求可能 | 特約の定めに従う |
| 賃借人の中途解約 | 中途解約に関する特約が設けられている場合は、定めに従う。 | 床面積が200㎡未満の居住用物件で、やむを得ない事情があると認められる場合には、借主から契約期間の途中で解約を申し出ることが可能。ただし、契約書に中途解約に関する特約がある場合は、その定めが適用される。 |
出典|国道交通省 定期借家制度
詳しくは、「賃貸契約手続きの流れ」のブログをご覧ください。
家賃改定の手続きの流れ

まずは、大家さんや管理会社と入居者が賃料改定について直接交渉します。その際、改定理由(適正な賃料額・根拠など)を明らかにして、賃借人に内容証明郵便を使用し、請求文書を送付するのが一般的です。入居者側が内容を検討し合意に至れば、「覚書」など書面で改定内容を取り決めて手続き完了となります。
家賃値上げ通知の要件

大家さんや管理会社から家賃の値上げ通知を受け取った場合、まずは通知書の内容を確認することが大切です。通知書には、次のような項目を記載する必要があります。
- 物件名や住所などの契約対象
- 通知日と、値上げが適用される開始日
- 現在の家賃と新しい家賃(または改定額)
- 値上げの理由(近隣相場の上昇、固定資産税や維持費の増加など)
- 貸主や管理会社の氏名・連絡先
「金額が書かれていない」「いつから上がるのか分からない」「理由の説明がない」など不明な点がある場合は、貸主に確認を取りましょう。内容が不明確なまま合意してしまうと、後でトラブルになる可能性もあるため注意してください。
通知書を受け取ったら、改定の根拠となる理由が妥当かどうかを確認します。例えば、「近隣の同条件物件より家賃が低い」といった、合理的な説明があるかどうかチェックする必要があります。もし納得できない場合は、書面やメールで「内容の説明を求める」もしくは、「改定には同意できない」旨を伝えましょう。
一方的な値上げは法律上認められていないため、借地借家法第32条に基づき「正当な理由」がなければ応じる義務はありません。家賃を支払いながら話し合いを進めたり、不安がある場合は、自治体の無料相談窓口や弁護士に相談すると良いでしょう。
家賃値上げに納得できないときの対処法

家賃の値上げについて納得できない場合、最終的に裁判所を通して調停や訴訟で解決を図る方法もあります。その場合、「今の家賃が妥当かどうか」を示す、以下のような資料を用意する必要があります。
- 近隣の似た物件の家賃をまとめた不動産会社の調査書や意見書
- 不動産鑑定士による詳しい調査報告書(鑑定評価書)など
不動産会社の調査書は身近な業者に依頼します。同じエリアや条件の物件の家賃を一覧にしてもらい、相場を客観的に確認する際に使用します。
また、不動産鑑定士の調査報告書(鑑定評価書)は、専門家が現地を調べ建物の状態や立地、周辺の市場状況などを総合的に判断して適正価格を報告するものとなります。
裁判所でも証拠として採用される資料となるので、話し合いでの解決が難しそうなときには、書類の準備をしておくと良いでしょう。
近年の家賃値上げの動向

総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、日本の借家(住居用)の家賃は、全国平均で1か月あたり約59,656円となっており、2018年と比較すると7.1%上昇しています。
公営住宅(都道府県や市区町村が運営する住宅)は月額24,961円で、5年前より7.6%アップ。UR(都市再生機構)や公社住宅は71,831円で2.8%の上昇にとどまっています。
一方で、一般の賃貸市場で多い民営借家では、木造が54,409円(4.5%増)、非木造が68,548円(7.0%増)と、マンションといった構造がしっかりとした建物の家賃が上がっています。
この背景には建築コストや修繕費の上昇、物価や人件費の高騰などがあります。また、都市部を中心に「良質な住宅への需要」が高まっており、オートロック付き・宅配ボックス付きなど、設備が充実した物件の家賃が上がりやすい傾向にあります。
1畳あたりの家賃を見ると、全国平均で3,403円。中でも「民営借家(非木造)」が最も高く4,151円、次いで「UR(都市再生機構)・公社住宅」が3,633円となっています。この数値からも、構造がしっかりしたマンションほど家賃単価が高いことが確認できます。
不当な家賃値上げを防ぐチェックポイント

ポイント①家賃値上げの根拠となる資料を確認する
家賃の値上げを求められたときは、まず大家さんがどのようなデータを根拠にしたのか確認しましょう。
ポイント②感情的にならず話し合いをする
家賃の値上げは驚くかもしれません。しかし、感情的になると交渉が難しくなるため話し合いをするときは、落ち着いた柔らかい印象で対応をするとこちらの主張がしやすくなります。
このまま住み続けたいと考えているなら、「今の部屋をとても気に入っているので、家賃の変動がなければ長く住み続けたいと思っています」と、自分の気持ちを伝えながら今後を踏まえて相談するのもおすすめです。
ポイント③選択肢を広げて交渉する
トラブルや結果的に損をしないためにも「家賃の値上げを受け入れるか、退去するのか」の2択に固執しないようにしてください。
例えば、「値上げ金額を少なくしてもらう」「値上げ開始日を延ばしてもらう」「家賃を値上げする代わりに直近の更新料を免除してもらう」など、臨機応変に交渉するのも一つの方法です。
家賃交渉がうまくいかなかった場合の対応
家賃の値上げ交渉が思うように進まず、大家さんから「値上げに応じてもらえないなら退去してほしい」と言われたり、話し合いがまとまらずに値上げ時期を迎えてしまったりするかもしれません。しかし、入居者は値上げ前の家賃を支払い続けていれば、退去する必要はないので安心してください。
しかし、大家さんが「新しい家賃以外は受け取らない」と支払いを拒んだ場合は、法務局の供託所を利用しましょう。供託所に家賃を預けることで、正式に家賃を支払ったとみなされます。また、話し合いが進まない場合は前述のとおり、裁判所を通して調停や訴訟を検討すると良いでしょう。
まとめ
家賃の決め方や家賃値上げの仕組み、普通借家契約と定期借家契約の違いや交渉方法について、以下にまとめました。
- 家賃は物件の構造・築年数・立地・設備・地域相場など、複数の要素を組み合わせて決定する
- 家賃の値上げは個人的な理由ではなく法律に基づく場合に限られる
- 長く住みたい場合は「普通借家契約」期間を区切って住みたい場合は「定期借家契約」を選ぶ
- 家賃は要素により上昇傾向にある
- 家賃の値上げは貸主と入居者の直接交渉から始まる
- 家賃の値上げに納得できない場合は自治体の相談窓口や弁護士に相談、最終的には調停や訴訟によって解決を求める
- 大家さんとの交渉では、感情的にならないように話し合う
- 大家さんが値上げした家賃以外は受け取らないと言った場合は法務局の供託所に家賃を預ける
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ライターのどいまちこです。
建築科で勉強した知識を活かし、住宅や暮らしにまつわるライターとして3年以上の執筆経験があります。セルフリノベーションが趣味で、ペンキ塗りや壁紙貼りが得意です。
現在、祖父母から受け継いだ築80年以上の古民家を繕いながら、保護猫2匹と娘のふたりでゆるりと暮らしています。
畑で採れた野菜と父が釣ってきた魚などを簡単に調理し、暑い日にはキンキンに冷えたビール、寒い日はホカホカと温まる熱燗を嗜む時が至福のひとときです。



